ゆるぐた記録日記

読んだ本、思った事、取り留めもなく書き綴るつもり。

( 感想 )手紙 / 東野圭吾

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1月だし、昔使っていた読書メーターを再開してみようと思いついた。

なぜ使わなくなってしまったのかは覚えてないけど、完璧主義な部分がある故に記録するものはきっちりしなければ気が済まないのに、それが段々煩わしくなる性格のせいだと思う。

久しぶりに使ってみて、感想の文字数制限の少なさにびっくりした。ほとんど何も言えない…!でも、管理できるのは便利なので今年は片手間でも使い続けられると良いなぁとぼんやり。

 

職場の忘年会で本の話になった。

仕事上あまり関わりはないが、読書家で知識量がすごい人だとは以前から知ったいた方と同じテーブルになったからだった。

その人曰く「自分の人生に影響を与えた数少ない本だから読んでほしい」とのことだった。

昨年はしばらく仕事が忙しくて、読書はおろか職場と自宅の往復以外で主だったことは特にできない日が続いていて、それにも嫌気がさしていたからリハビリにいいタイミングなのかもしれない、と翌日に買い求めた。

リハビリには、重たすぎる本だとは思ったけれど。でも結果的に一気に数日で読了できる期間に出会えて良かった。

 

( ネタバレ含む )

 

兄が犯罪を犯し刑務所に服役している間に、その弟を取り巻く環境を描いた小説。

展開は終始鬱々とした空気を拭い去れない。でも、それを「しょうがない」と思っている自分がずっとどこかにいる。主人公が幸せになろうとするたび、些細な兄の陰がちらついて失ってしまう。だけどその展開を安易に予測できてしまう。兄のことを知った周りの人たちが弟に救いの手を差し伸べるわけではなく、そっと気まずそうに距離を取り、去っていく。でもそれをおかしいと憤ることが私はできなかった。世間ってしょせんこんなものだよなとうっすら思ってしまった。

だけど、それは私はまだ差別していないと思いながら差別しているからだと思う。「差別はなくならない」は文中に出てくる印象的なワードだった。みんな自分を、自分の周りの人を守ろうと差別をする。そこに加害者意識はなく、防衛本能のみなのに、確実に相手を傷つけていく。差別で相手を貶すことは道徳的にいけないことだからと大半の人は過剰に気を遣い、壁を作り上げていく。主人公が悪いわけではないことは誰もが分かっている、なのに壁を作り上げていく人は多い。リスクを減らすために。

 

暗い展開を環境を変え、テーマを変え、繰り返していくうちに主人公の考えや立ち回りも変わり、途中で兄との絶縁を決める。その行動が正しいのか正しくないのかは分からないが、その行動によって、受刑者の更生とはなんなんだろうと疑問が残った。「受刑者の家族が受けている差別の苦痛もひっくるめて、受刑者の犯した罪の刑なんだ」という内容の言葉が出てくる。受刑者の周りの人間は更生させるための道具ではないが、確かに悔い改めるために必要なフォーカスなのかもしれない。作中でも弟が差別されていると知った兄は、落胆しながら自分はまだ更生できていなかったと語るシーンがあった。唯一の血縁者である弟に縁を切られた兄の更生とはなんだろうと思う。出所したところで、自分を待っている人間はいない。何のために更生するのだろう。自分自身の為というのは確かにあるだろうけど、更生する気持ちを奮い立たせるものはなんだろう。それを含めて刑だというには、兄の犯行動機を知っている一読者にするとどうしても、すんなり納得できない。

 

また、印象的な言葉で「身内の犯罪者のせいで差別されても、正々堂々としていれば差別されながらも道は拓けてくると考えているんだろうが、それは甘えだ。自分たちの全てをさらけだして、その上受け入れてもらおうと思っているわけだろう?仮にそれで無事に人と人の付き合いが生じたとしよう。心理的に負担が大きいのは自分たちと周りの人間どちらだ?」というのもあった。この視点は自分の中には無かった。兄が受刑者だと知って部署を異動させられるシーンでも、「君が悪いのではない。しかし君がいると周りが気を遣って仕事に支障が出るんだ」という言葉もあり、正しい事と生き抜くことは違うのだと思った。人間関係において、いくら正しくてもその場に流れる空気が苦しければ確かに続かない。

 

主人公が別の事件で被害者の家族という立場にもなるが、それを含めて、どこか他人事じゃないと感じた。

作中のように大事件になる可能性は低いかもしれない、けど、大なり小なり、加害者にも被害者にも、また加害者関係者にも被害者関係者にも、有無を言わさずなる時はなってしまうのは避けられようがない。

家族がそうなった時、親戚がそうなった時、恋人がそうなった時、友人がそうなった時、また知人がそうなった時、私はどう立ち回れるんだろうか。

自分が主人公と同じ立場になった時、また主人公と同じ立場に上記の誰かがなった時、私は何を考えてどこまで何ができるんだろうか。

 

「身内から犯罪者が出ても自分の生活には何も支障はないと思っていた。その考えが覆された」と本を勧めてくれた人は言った。

その人がそう言うのも、私が考え込んでしまうのも、きっと作中に出てくるどの登場人物の立場が自分と無関係だとは思えないからだ。

 

感動するわけではなく、教訓が得られるわけでもなかったけど、考えられされる良書だった。